今回ご紹介をさせて頂きますのが、繁殖に必要な猫の遺伝学について詳しく解説をさせて頂きます。
Contents
遺伝学
遺伝学の基礎知識
繁殖を行うには、遺伝学の基礎を学ぶことは必要不可欠です。
たとえば、毛食などの優性・劣性の関係を知っておくと、生まれてくる子猫の毛色を予測することができます。
メンデルの法則
生物の遺伝形質(生まれ持った特徴)は、それぞれに対応する遺伝子によって決められます。
それぞれの個体は、一つの遺伝形質について細胞内に一対の遺伝子を持ちます。
配偶子(卵子、精子)が授精して新たに配偶子を作る時、対になっていた遺伝子は分離し、どちらか一方だけが新たな配偶子に入りっ込みます。
この結果、新たな配偶子は両親の半分ずつの遺伝子を持ちます。
対立遺伝子には、優性遺伝子(アルファベット大文字で表す)と劣性遺伝子(アルファベット小文字)とあります。この二種の遺伝子の組み合わせにより、その形質が決められます。
◆優性の法則
猫の毛色を決める遺伝子が黒(B)とブルー(b)の場合、お互いに対立する特徴を「対立形質」と呼びます。この中でF1(雑種1代)に現れる黒(B)を優性形質、現れないブルー(b)を劣性形質といいます。
そしてF1で優性形質の実が現れる現象を「優生の法則」と呼びます。
◆分離の法則
ひとつの遺伝子は優性(例:AA)劣性(例:aa)の組み合わせ(ホモ)、または優性、劣勢の(例:Aa)の組み合わせ(ヘテロ)という対になった遺伝子型をしていますが、これがほかの遺伝子(同じ遺伝子型)と結ばれる時は2つに分離(例:AaはAとaに分離)して、それぞれがほかの遺伝子と結ばれます。
この結果、一つの遺伝子はつねに対になった組み合わせの形をとります。
独立の法則
異なる遺伝子は、それぞれ独立して遺伝します。
例えば、ペルシャンの毛の長さと毛色は別々に遺伝します。
長毛、短毛の出生率
ヘテロ接合子の短毛猫(共に遺伝子型はLℓで、長毛の遺伝子をもっている)が交配した場合
オスℓL
メスLℓ |
L | ℓ |
L | LL | Lℓ |
ℓ | Lℓ | ℓℓ |
生まれた全4頭中、短毛(LL、Lℓ)が3頭、長毛(ℓ ℓ)は1頭、長毛は25パーセントの確率で誕生します。
遺伝に関する用語
優勢と劣性→優性遺伝子は、一つあればその形質があらわれます。優性遺伝子同士、または劣性遺伝子のいずれかと組み合わされ7、記号は大文字二つか大文字と小文字で表現されます。(例:BB、Bb。Bはブラックの遺伝子)劣性遺伝子は二つ揃わなければその形質があらわれない。記号はbbのように小文字二つで表現される
ホモ接合子→同型接合子。優性と劣性、または劣性と劣性のような同じ遺伝子の組み合わせ
ヘテロ接合子→異型接合子。対立する遺伝子の組合せ。
伴性遺伝子→性染色体(性別を決める染色体)んぽX染色体上にある遺伝子。オスとメスでは遺伝の仕方が異なります。
相対形質→自然界にあるワイルド・タイプ(野生型)に対して、突然変異により生じたものは、優性と劣性の相対関係になります。例・ショートヘアに対するロングヘア。
世代記号→P(親の代) P1(祖父母) F(子)F1(雑種第1代)F2(雑種第2代)
隔世遺伝→突然、先祖と似た形質が現れること。タイプの隔世遺伝は、同血型の動物の繁殖において起こることがあり、「先祖返り」と呼ばれる。
性染色体→染色体38本中、性別を決定するもの。メスはXX、オスはXYの染色体を持つ。
メラニン→色を作る。ユーメラニン(黒色)とフェオメラニン(黄色)があります。
毛色に関した遺伝子記号
記号 | 自然、野生の状態 | 変異して現れるもの |
A遺伝子 | A-アグーチ
縞模様を作る。縞と縞の間にある黄色系のくすんだ色 |
aa-ノン・アグーチ
黒や赤などの単色。縞がない |
B遺伝子 | B-ブラック | bb-チョコレート
b(ℓ)b(ℓ)-シナモン |
C遺伝子 | C-フル・カラー
Cがあるとポイントは現れず、全身の毛色に濃淡はない。 |
c(s)c(s)-ポイントカラー
c(b)c(b)-バーミーズ・セピア c(b)c(s)-トンキニーズ・ミンク(ダイリュート・バーミーズ) |
D遺伝子 | D-ディープ
濃い色素を形成する |
dd-ダイリュートカラー
色を薄める。ブラックはブルー(灰色)レッドはクリームに脱色。 |
I遺伝子 | Ii-非抑制遺伝子
色素が作られるように作用する |
I-抑制遺伝子
2つのメラニンのうちフェオメラニン(黄色)に作用し、色素が作られるのを抑制する。 その為、I遺伝子を持つアグーチの猫はシルバー系になる |
S遺伝子 | ss-白斑なし(小文字のs) | S-白斑遺伝子(大文字S)
白スポットを作る。黒にSがあると黒白のバイカラー、赤にSがあると赤白のバイカラーになる。SsよりSSのほうが、城の部分が多い |
T遺伝子 | T-マッカレル・タビー
縞模様を作る。アグーチとタビーは同時に存在する |
Ta.-ティックド・タビー
t(b)t(b)-クラシック・タビー |
W遺伝子 | ww-ノンホワイト(小文字のw)
白色がない |
W-ホワイト(大文字のW)
優勢白色遺伝子と呼ばれ、すべての毛色に対して優勢。W因子が1つでもあれば白毛になる。 |
O遺伝子 | オレンジ遺伝子といい、X染色体に乗って遺伝する伴性遺伝子。Oは赤またはクリームなどの赤系の色を発現させ、対立遺伝子のoは、黒またはブルーなどの黒系のみの色を発現させる。O因子とo因子を同時に持つ猫は、トーティシェルやブルークリーム、パッチドタビーなどの毛色になり、それらの猫はXXの染色体をもつメスである。
これにS因子(白斑遺伝子)が加わると三毛猫になる。 オスはX染色体を1つしか持たないため、そのX染色体にO因子が乗ると赤系になる。 |
毛色以外の遺伝子記号
記号 自然、野生の状態 変異して現れるもの
FD遺伝子 fd-ノーマルな耳 Fd-スコティッシュフォードの耳
Fd×Fdは耳の折れ方を強めるが、しっぽや指などの骨格に奇形が出る。このためす子ティッシュの交配では、必ずFd(耳折れ)とfd(耳立ち)を交配する。
CU遺伝子 cu-ノーマルな耳 Cu-アメリカンカールの耳。
アメリカンカールの交配では、耳の曲がり方が大きい猫同士を組み合わせると、生まれる猫の耳の曲がり方は、頭頂部につくほどきつくなる。近親交配の弊害を避けるため、アメリカンカールでは普通の家庭猫との交配が認められ、さらに、スタンダードは耳が曲がりすぎないことが規定されている。
L遺伝子 LL、Ll-ショートヘア ℓℓ-ロングヘア
M遺伝子 mm-ノーマルな尾 Mm-欠けている、または短い尾。
優性遺伝子Mは致死遺伝子に伴うため、すべての猫が無尾になることはない。遺伝子型がMMのマンクスは、死産、もしくは生まれても育たない、もしくは繁殖能力がない固体である。このためマンクスの繁殖には、Mm(短尾)とmm(ノーマル尾)の交配が求められる。ここから生まれるマンクスの遺伝子型はMmである。
HR遺伝子 HR-ノーマル毛質 hr-ヘアレス(スフィンクス)
R遺伝子 RR-ノーマル毛質 rr-萎縮した毛質(コーニッシュレックス)
re-萎縮した毛質(デボンレックス)
コーニッシュとデボンの遺伝子は異なるため、rr×reの交配からはノーマルな毛質の子猫が産まれる。
WH遺伝子 wh-ノーマルな毛質 Wh-縮れて硬くなった毛質(アメリカンワイヤーヘア)
遺伝の実用(ヒマラヤンの誕生)
短毛でシールポイントのサイアミーズ(Lb)と、長毛でブラックのフルカラーのペルシャ(ℓB)を交配して、長毛、シールポイントのヒマラヤンを作出する過程を段階ごとに見ていきましょう。
サイアミーズのオスとペルシャのメスを交配する。
サイアミーズのオス
ペルシャのメス |
Lb | Lb |
ℓB | LℓBb(短毛のブラック) | LℓBb(短毛のブラック) |
ℓB | LℓBb(短毛のブラック) | LℓBb(短毛のブラック) |
1で生まれたF1同士を交配する
オス
メス |
LB | Lb | ℓB | ℓb |
LB | LLBB
短毛ブラック |
LLBb
短毛ブラック |
LℓBB
短毛ブラック |
LℓBb
短毛ブラック |
Lb | LLBb
短毛ブラック |
LLbb
短毛ポイントカラー |
LℓBb
短毛ブラック |
Lℓbb
短毛ポイントカラー |
ℓB | LℓBB
短毛ブラック |
LℓBb
短毛ブラック |
ℓℓBB
長毛ブラック |
ℓℓBb
長毛ブラック |
ℓb | LℓBb
短毛ブラック |
Lℓbb
短毛ポイントカラー |
ℓℓBB
長毛ブラック |
ℓℓbb
長毛ポイントカラー (ヒマラヤン) |
F1同士の交配からは、1/16の確率で、長毛ポイントカラーの子猫が生まれます。よりヒマラヤンらしく改良するために、この子猫を選択して、繰り返しペルシャと交配します。
ヒマラヤンとペルシャの組み合わせ
※ペルシャのフルカラー(優性遺伝子)を仮にCC、ヒマラヤンのポイントカラー(劣性遺伝子)をppとします。
ヒマラヤン
ペルシャ |
p | p |
C | Cpペルシャ(ハイブリッド) | Cpペルシャ(ハイブリッド) |
C | Cpペルシャ(ハイブリッド) | Cpペルシャ(ハイブリッド) |
この組み合わせからはハイブリッドのペルシャだけが生まれます。
ハイブリッド同士の組み合わせ
ペルシャ(ハイブリッド)
ペルシャ(ハイブリッド) |
C | p |
C | CC
ペルシャ |
Cp
ペルシャ(ハイブリッド) |
p | Cp
ペルシャ(ハイブリッド) |
pp
ヒマラヤン |
このハイブリッド同士の組み合わせからは1/4の確率でヒマラヤンが生まれます。
F1同士から生まれるヒマラヤンは初期のタイプで、ここで生まれるものは完成に近いです。
ハイブリッドとヒマラヤンの組み合わせ
ヒマラヤン
ペルシャ (ハイブリッド) |
p | p |
C | Cpペルシャ(ハイブリッド) | Cpペルシャ(ハイブリッド) |
p | pp ヒマラヤン | pp ヒマラヤン |
この組み合わせからは1/2の確率でヒマラヤンが生まれます。
ヒマラヤン同士の組み合わせ
この組み合わせからは、全てヒマラヤンが生まれます。
三毛猫の誕生
三毛は混色(黒と赤、またはブルーとクリーム)に白が入った毛色です。この白はW遺伝子(優性白色)とは異なるS遺伝子(優性の白斑遺伝子)で、これが加わることで、黒・赤・白の三毛になります。
SsよりSSのほうが白い部分が多くなりますが、その割合は一定ではありません。
三毛猫、黒赤の混色にオスがいない理由
猫の毛色を赤にするオレンジ遺伝子(O)は、性染色体であるX染色体と共に遺伝します。(伴性遺伝)
メスの性染色体はXX,オスはXYと表現されます。
赤と黒の毛色を同時に持つ猫(混色、または三毛)は、一方のX染色体上に赤の遺伝子(XO)があり、もう一方の染色体にはないという状態(Xo)です。つまり、X染色体が2本はければならない(XOXo)わけで、このことから、2つの異なる毛色を同時に持つ猫はメスになることがわかります。
これと比べて、性染色体がXYのオスはX染色体が1本しかないため、毛色は赤系か黒系のどちらか一色になります。(XOYまたはXoY)
まれに、遺伝子の異常(XXY)でオスの三毛猫が誕生しますが、生殖能力がない場合がほとんどです。
まとめ
今回は、猫の繁殖に必要な遺伝学についてご紹介をさせて頂きましたが、いかがでしたでしょうか?
三毛猫のメスは、お目に掛かる事が多いですが、オスの三毛猫は3万匹のうち1匹しかいないと言われているくらい希少価値が高いです。
オスの三毛猫は、幸福をもたらしてくれるとも言われています。
猫の遺伝子も人間と同じくらい奥が深い事がこの記事を通して学んで頂ければ幸いです。